***a scar

 

 あなたが与えてくれるものなら。
 傷だって毒だってなんだっていいのに。
 わたしから目を逸らす貴方の瞳に映るのは、後悔の色だけ。
 わたしのことが重荷なら。きっぱり切り捨ててくれればいいのに。
 だのに傍には置いておくなんて、あなたわたしを見くびってるの?

 よく晴れていた。
 はめ殺しの窓から僅かに漏れる朝日が眩しくて目を細める。
 自分の部屋ではない場所で目を覚ますのは、最近ではよくあること。
 枕を抱えて、
1人眠っていたことに気付く。
 やっぱり、当然のように、あのひとは居なかった。
 むせ返るような海の潮の香に紛れながらも、仄かに彼の匂いのするシーツを持ち上げて。
 思い切り息を吸い込んだ。
 化粧品と、微かな煙草の煙と、それから甘い甘い彼の体臭。
 わたしがこんなことで幸せに浸っていることなんて。
 あなたは考えもしないのでしょう。

 息を呑んで。呼吸を整える。
 不安に押しつぶされそうになりながら。手にしたバスケット――酒瓶とグラスとが入っている――をきつく抱きしめた。
 できるだけ他意はないように。無邪気に見えるように気をつけながら、控えめにノックを
2回。
 すぐに、「なぁに?」彼の掠れた声が響いた。
 扉が開く。わたしの存在を認めるなり、彼の眉間に軽く皺が寄った事に。気付かないわけがなかった。
「あら、センセ。こんな夜遅くにどうしたの?」
 軽い言葉を発しながらも。彼はわたしをどう追い返そうか思案しているのは、すぐに分かった。出来るだけ傷つけないように。できるだけ、穏便に。
「ごめんなさい、スカーレル。もう寝てましたか?」
 わたしは彼のそんな思案には気付かないふりをして。
 困ったように首をかしげて見せる。
「いいえ、まだ起きてたわよ。……でもね、センセ。こんな夜遅くにふらふらするのは、関心できないわね。アタシだからいいけど、他のひとだったら、取り返しのつかないことになるかもしれないのよ?」
 諭すように言う彼の視線はわたしを見ているようで見ていない。
 
"他のひとだったら"
 その言葉から推し量ることのできる2つの意味のどちらを彼が言いたいのか思案しながら。
 わたしは無理やりに彼の部屋の中へと入りこんだ。
「なんだか、眠れないんです。ご一緒してくれないでしょうか?」
 彼のベッドに腰掛けるとわたしはグラスを
2つ用意して、ウイスキーボトルの栓を開ける。
「あら……、困った子ね。もう、駄目と言っても帰ってくれそうにないわね。いいわ、その代わり、一杯だけよ?」
 困ったように笑みながら、彼は扉を閉めた。ほんの少しだけ、隙間を開けるのを忘れずに。鍵を閉めてくれたなら、わたしはどんなに嬉しかっただろう。けれど彼は逃げ道を確保することは忘れていなかった。
 わたしから距離を置くのを忘れずに、少し離れてベッドの端に腰掛ける。
 以前は違ったのに。
 ひとがどんなに非難しても。人前だって気にせずに。平気で抱きついてきたり、頭を撫でてくれたのに。
 どうして、わたしから逃げようとするの?
 まだお酒は一滴も飲んでいないのに。
 ひりひりと喉から胸にかけてが焼けたように熱くなる。
 誤魔化すように、わたしは一気にウイスキーを煽った。
「スカーレルも飲んでください。美味しいですよ?」
 笑いながら言ったつもりだったけれど。
 ああ、もう彼の表情も歪んでしまってよくわからない。
 遠くで、わたしの名を呼ぶ彼の声を聞きながら。
 わたしの意識はそこで途切れた。

「迷惑だったんでしょうか」
 誰に聞くでもなく、わたしは問いかける。
 けれど。今更後にはひけない。
 彼がわたしを美化していることを知っている。
 わたしを、無垢で汚してはいけない存在だと思っていることを。
 だから誤魔化すように笑うんだって。
 だけどね、スカーレル。わたしはそんな女じゃないんだよ。
 あなたがわたしを避けるのは。
 わたしの気持ちを知っているから。
 だからこそ、わたしは何も知らないふりをして。彼を追いかける。
 逃がしてたまるものですか。
 彼の香りに包まれながら。わたしはもう一度ベッドの中に潜り込んだ。


記念すべき(?)初書きスカアティ。それから初書き二次創作。ずっと二次創作は書けなくて。それでもスカさんへの愛だけで見切り発車。
それにしても、絡みがないなあ……。オリジナル創作小説サイトの日記に掲載したブツ……。
スカさん側のいいわけは
こちらへ。
2003/12/11

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